【特集】mRNAを用いた組織再生医薬

近年、平均寿命の延びに伴って加齢による視覚や聴覚、運動、認知・記憶などに関わる組織の機能障害や慢性疾患に苦しむ方々が増加しています。また、これらは先天的また外傷さらには慢性疾患の合併症などによっても発生しますが、現在十分な治療法がありません。再生医療は、このような障害や疾患に対する治療法を切り拓くものとして期待されています。

1.分化・増殖を促進することで障害の生じた組織や臓器の機能を再生

再生医療というとiPS細胞などを活用した細胞治療や角膜移植などの移植医療という印象があるかもしれませんが、怪我や病気で傷んだ組織が治癒するように、生体には自らを修復し再生する力が備わっています。これは、様々な組織に分化することが可能な幹細胞や前駆細胞が生体内に存在するためで、最近では一度傷ついたら再生しないと考えられていた神経にも幹細胞があることがわかってきました。再生医薬とは、幹細胞などに作用してその分化・増殖を促進することで障害の生じた組織や臓器の機能を再生する医薬品を指します。

2.先天的な遺伝疾患にmRNA医薬を用いる場合

正常な遺伝子のDNAを導入する遺伝子治療と異なり、mRNA医薬はその作用が一過性であることが欠点となるため限界があると考えられていますが、標的細胞および標的遺伝子産物の両者ともに入れ替る(ターンオーバー)速度が遅い場合には、mRNA医薬により正常な遺伝子産物を作らせることにより十分に治療できる可能性があります。

  • 細胞増殖因子や分化因子をmRNAとして投与する場合、その因子そのものをタンパク質製剤として投与に比べ作用持続が長く、また患者本人の体の中でタンパク質に翻訳されるため免疫原性などの安全性で優れると考えられています。
  • タンパク質製剤では不可能な細胞内に存在する分化調節因子、構造タンパク質、機能タンパク質などをmRNA医薬により細胞に作らせ治療することが可能です。

この様に、タンパク質製剤に対して優れた面が多くあることから、mRNA医薬の再生医薬への応用は画期的な治療法を実現するものとして、ワクチンへの応用と同様に1990年代以降精力的に研究されています。

3.mRNA医薬の再生医薬としての応用例

血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor:VEGF)、神経成長因子(Nerve Growth Factor:NGF)、インスリン様増殖因子(Insulin-like Growth Factor:IGF)など多くの細胞増殖因子のmRNAを組織再生医療へ応用する研究がこれまで報告されています。この中で最も臨床開発が進んでいるのがスウェーデンのカロリンスカ研究所とAstraZeneca社が共同で開発するVEGF-A mRNA製剤AZD8601です。そのmRNAプラットフォーム技術はCOVID-19 mRNAワクチンの開発で有名になった米国Moderna社より提供されていることは注目すべき点です。

この共同研究は2013年に開始され、2018年に培養細胞およびマウスモデルにおける薬効試験結果が発表され、さらに2019年に2型糖尿病患者を対象とする臨床第1相試験成績が論文発表されました。現在はスウェーデンにおいて冠動脈バイパス術を受けた冠動脈疾患患者を対象とする臨床第2相試験が進行中で、その結果が待たれます。彼らは一貫してVEGF-A mRNAをDDS製剤なしで直接心臓内に投与しており、この点はmRNAワクチン製剤と大きくことなる点です。

昨年末、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のCiCLE事業に採択されました「mRNA医薬を用いた変形関節症(OA)に対する革新的な機能維持療法の開発」(https://pdf.irpocket.com/C4571/oc0k/Z6kj/kBtT.pdf)もこのカテゴリーに属するものです。